日本の名字の中でも、その数で上位にランクされる「わたなべ」。
学校のクラスに、必ず一人はいたような気がします…。
その「わたなべ」の中でも、多く使われる漢字が「渡部」と「渡辺」なのですが…。
時々「渡邊」や「渡邉」という方もチラホラと…。
少ない「邊」「邉」なのですが、実は「辺」の異体字です。
ですから、「邊」「邉」は「辺」と全く同じ読み方と意味ですので、ほぼ同じ漢字といっていいのかもしれません。
ところで、「邊」「邉」「辺」なのですが、この漢字の部首である「しんにょう」が少し奇妙なのです…。
それは、「辺」は「一点しんにょう」に対し、「邊」「邉」は「一点しんにょう」と「二点しんにょう」の場合があるということ。
このとおり、なぜか「邊」「邉」については2通りの漢字が存在します。
これは、なぜなのか?
ということで、「わたなべ」の漢字について徹底的に調査しました。
本記事では、「わたなべ」の漢字、特に「邊」「邉」「辺」などの「しんにょう」が異なる理由や、出し方などをわかりやすく解説していきます。
それから、他の「わたなべ」の異体字も紹介しますので、ご期待ください。
1.「わたなべ」の漢字の「しんにょう」が奇妙な理由!
まずは、「わたなべ」の「辺」は「一点しんにょう」のみなのに、「邊」「邉」は「一点しんにょう」に加え「二点しんにょう」もある理由から。
昔の日本では、「しんにょう」に対する「決まり」「規制」はありませんでした。
それが明治時代になり、バラバラだった書き方が中国で使われていた「二点しんにょう」に統一されます。
ですから、明治以降は「辺」「邊」「邉」全て「二点しんにょう」だったのです。
その後、戦後のGHQ支配下で、漢字を簡単にしかも少なくすることを目的とした、「当用漢字」が定められました。
この時に、当用漢字に選定されたのが「辺」で、書き方も簡単にするため「一点しんにょう」に統一されます。
それ以降、「しんにょう」は「一点である」ということが国民に広く浸透しました。
そして、「邊」「邉」は当用漢字に選ばれることなく、使用することを制限されたのです。
時代が進み、1981年になると「当用漢字」は廃止され、「邊」「邉」が「二点しんにょう」のまま使用の制限が解かれました。
ただし、毛筆を使う書道の世界では、遥か昔から「二点しんにょう」を「一点しんにょう」で書くという決まりのようなものがありました。
達筆な方の毛筆の文字を想像していただければわかると思うのですが、筆でサッサ~とつなげて書いていたのですね…。
ですから、「二点しんにょう」に統一された明治以降も、「邊」「邉」などは「一点しんにょう」と「二点しんにょう」が混在していたのです。
これが、「邊」「邉」の「しんにょう」が複数存在する理由。
下のとおり、毛筆がモデルの「楷書体」「行書体」は「一点しんにょう」です。
そして、印刷用の字体である「明朝体」「ゴシック体」などは「二点しんにょう」。
「辺」は「一点しんにょう」しか使えませんが、「邊」「邉」は「一点」「二点」どちらの「しんにょう」を使っても間違いではありません。
どちらで書いても、正しい漢字ということ。
また、「しんにょう」の形状の違いを使い分ける必要があるといった情報があります…。
それは、「一点しんにょう」の形は「、」の下が「ろ」に対して…。
「二点しんにょう」の形は「、」の下が「、」でその下が「フ」と書くべきといった情報です。
実は、この情報は間違い…。
行政機関である文化庁からは、以下のような文書が出されています。
引用元:常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)について
【常用漢字表の字体・字形に関する指針(報告)について】
【102ページ】
少し細かくて読みづらいかもしれませんが、要するに全ての漢字を「一点しんにょう」で書いても、また「邊」「邉」などを「二点しんにょう」で書いても間違いではないということ。
さらに、「二点しんにょう」を下の図のどちらで書いても間違いではないということも記載されています。
「フ」「ろ」、どちらも大丈夫ということ。
また、「一点しんにょう」を「、」「フ」で書いても間違いではないということも記載されていますね。
このように、「しんにょう」は一点でも二点でも、下の部分は「フ」「ろ」どちらでも良いということ。
おそらく昔は、一点は「ろ」で、二点は「フ」が正しかったのかもしれませんが、現在はどちらでも良いということになっています。
文化庁では、他の漢字も含め、こういった細かい部分の使い分けに対し、比較的どちらでも間違いではないといった姿勢。
ちなみに、文書では「しんにゅう」となっていますが、「しんにゅう」と「しんにょう」は同じことを指しています。
2.「わたなべ」の漢字の「しんにょう」、それぞれの出し方!
続いて、「邊」「邉」に対する「一点しんにょう」と「二点しんにょう」の出し方を説明します。
パソコンなどに、それぞれの「しんにょう」を表示させるには、フォント変更が簡単。
前項で紹介した、「楷書体」「行書体」は「一点しんにょう」です。
その他にも、「教科書体」なども「一点しんにょう」ですよ。
「二点しんにょう」を表示させるには、「明朝体」「ゴシック体」などに変更してください。
フォント変更は、「わたなべ」だけを変更すると、目立って違和感満載になりますので、文章まるごと全て変更するのがおすすめです。
仮に、フォントを変更せずに切り替えるには、有料のフォントを購入するか、面倒ではありますが外字エディタを使い手作業で作成する方法があります。
この作業は、パソコンのOSによって異なりますので、「外字エディタ 作り方」「Windows○○ 外字の作り方」などのキーワードで検索してみてください。
3.「わたなべ」の漢字はたくさんの異体字が存在する!
なぜか、「辺」の異体字はたくさんあります。
それこそ、明治時代に「二点しんにょう」に統一される前は、部首以外は同じ字で「一点しんにょう」と「二点しんにょう」それぞれがあったわけで…。
さらには、同じ「わたなべ」でありながら、「本家と分家との区別のため」といった理由で異なる漢字を使うといったこともあったそうです。
そんなこんなで、「辺」の異体字は100種類以上も存在するらしい…。
さすがに、全て紹介するのは不可能ですので、違いがはっきりしたものを選んで紹介します。
まず、「邊」の系統ではこちら。
それから、下が「邉」の系統です。
「邊」「邉」ともに、現在は「自分」の「自」という漢字が一番上に乗っているのですが…。
異体字では、それが「白」や「目」に変化している他、その下の「かんむり」への接触の有無など様々です。
それから、その「かんむり」も「あなかんむり」「うかんむり」「わかんむり」など色々。
まだまだ相違点はあるのですが、これら全て「一点しんにょう」もあれば「二点しんにょう」もあったりと、組み合わせを変えるとかなりの数になります。
まとめ
以上が、「わたなべ」の「しんにょう」が異なる理由と、出し方などについてでした。
「辺」は「一点しんにょう」しか使えませんが、「邊」「邉」は「一点しんにょう」「二点しんにょう」どちらで書いても間違いではありません。
また、「しんにょう」の形に関してですが、「一点」「二点」ともに「ろ」「フ」どちらで書いても間違いではありません。
それから、「一点しんにょう」と「二点しんにょう」の使い分けは、フォントの変更が簡単です。